「ぼくは何のために この世へ生まれてきたのだろうか…」

そんなことを考えてしまうほど、当時のぼくは追い込まれていた。

「いい大学に行き、大手企業に勤めなさい」という両親の教育の下、ぼくはそれなりに勉強をがんばり、大学に入学。就職も順調に決まり、社会人としての人生をスタートさせた。ここに至るまで、大きな挫折をすることもなく、実に無難な人生を歩んできた。

ただ社会に出てからは、挫折の連続だった。毎日満員電車に揺られ、残業に次ぐ残業。「超」が付くほどの縦社会の会社に就職してしまったぼくは、帰宅は毎晩12時を過ぎ、休日出勤も当たり前。休みを要求しようものならば 「今の若者は…」「これだからゆとり世代は…」とバカにされた。

元々小心者だったぼくは、 とにかく自分を殺し、先輩や上司の意見にただ従うようになっていった。そして いつの間にかまるで感情のないロボット〟のように生きていた。

「社会で生きるとはこんなにも辛く、苦しいものなのか…」

そんなため息ばかり、愚痴ばかりの社会人生活を続けて4年が経った頃、人生を大きく左右する出来事が起こる。当時システムエンジニアとして働いていたぼくは、原因不明の腰痛に襲われ、歩くことすらできなくなってしまったのだ。

どこの病院に行っても、言われるのは「原因不明」の一言。治療の方法さえわからないまま、月日だけが経ち、次第に心まで病んでしまっていた。

当時25歳。人生でやりたいことはたくさんあるのに、何1つやっていなかった。その時にやっと気付いた。こんな人生を望んでいたんじゃないって。周りの人たちを満足させるために生まれてきたんじゃないって。

いい大学に行き、いい会社に入り、安定やたくさんのお金を手に入れたところで、自分が本当に望んでいたものは手に入らない。どんなすごい肩書きがあろうと、どんなすごい会社に勤めていようと、「本当の自分」を隠しながら生きて、行き着くところには何があるんだろうか?「周りの目」を気にしながら生きた人生の、その先にあるものって何だろうか?

ぼくはこの出来事をキッカケに、一大決心をした。

「身体が治ったら、やりたいことをやる」

世界一周の旅へ

「このまま一生治らないんじゃないか…」。そんな不安に襲われながらも希望を捨てることなく、いろんな人に話を聞いては、勧めてもらった病院に足を運び続けた。そんな状況の中、ぼくが昔からずっとやりたいと思っていたことがある。それは「世界一周」

20歳の時、父親から一眼レフカメラを買ってもらったのをキッカケに、旅に出ては写真を撮るということを繰り返していた。そしていつか世界中を旅して、たくさんの国の景色を写真に収めたいと強く思うようになっていた。ぼくはその夢を叶えるため、情報を仕入れては病院を渡り歩いた。

そしてついに、病院を渡り歩いて4カ月が経った頃、知人の紹介で出会った治療院で腰痛の原因がわかり、治療とリハビリを開始。半年近くに渡るリハビリの末、ようやく普通の生活ができるまでに回復した。この経験は本当に辛いものだったが、かけがえがないほどの気付きと学びを与えてくれた。

すべての人に当てはまることだが、人生いつ、何が起こるかわからない。

ぼくはこの出来事をキッカケに「いつかやりたい」を自分の中で一切やめることにした。そして「いつかやりたい」と思っていた世界一周に出るために、ぼくは準備を着々と進めた。

当時 英語をほとんど話せなかったぼくは、世界一周の1カ国目の条件として「英語が学べる」ところ、そしてリハビリを通してハマってしまった「登山を楽しめる」ところの2つを軸に探した。その候補の1つとして挙がったのが、ニュージーランドだった。

Great Walks“というロングトレイルに、「世界一美しい散歩道」と言われているミルフォード・トラック(Milford Track)。満点の星空に、ファーマーズマーケットなど、調べれば調べるほど、どんどんニュージーランドに惹かれていった。

そして2013年9月、ぼくはワーホリのビザを握り締めてニュージーランドへと旅立った。まずは3ヶ月間英語を学び、1~2ヶ月ほどニュージーランドを旅したら、他の国へ渡る。渡航前はそんなプランで考えていた。

「旅すること」と「暮らすこと」はまったくの別物

同じ島国で、同じように四季があるなど、身近に感じられる点がたくさんある日本とニュージーランド。その一方で、日本の人口は約1億2000万人に対し、ニュージーランドの人口はわずか480万人と圧倒的に少なく、手付かずの大自然が数多く残り、時間がゆっくりと流れていく。

毎日 夜遅くまで働き、常に忙しさに追われていたぼくにとって、ニュージーランドの「ゆっくりと流れる時間」は何よりも贅沢だった。そしていつしか、ぼくは今までに経験したことのない「心の安らぎ」をこの国で感じていた。

そんな暮らしをしているうちに、ぼくはこんなことを考えるようになった。

「本当の豊かさ」とは?

「いい大学に行き、安定した会社に勤める。そうすればこの先も安心だから」。そういう教育の下で育ってきたぼくは、何が成功で、何が本当の豊かさなのか。ニュージーランドという国で、すべてがひっくり返されてしまった。それは「混乱」に近いものだった。

なぜなら今まで自分が信じて努力してきたことが、ある意味すべて否定されてしまったかのような感覚になったから。世界一周の1ヶ国目として訪れたニュージーランド。さっそく強烈なパンチを食らわされてしまった。

なぜ彼らはこんなにも「豊か」なのか。
なぜ彼らはこんなにも「幸せ」そうなのか。

それを知るために、学ぶために、 ぼくはこの「ニュージーランド」という国に呼ばれたのかもしれない。そう感じざるを得なかった。ニュージーランドの生き方や豊かさ、ライフスタイルに強い衝撃を受けたぼくは、世界一周を断念して、ニュージーランドに残ることを決意。ビザの延長も含め、結果的に1年4カ月間もの期間をニュージーランドで過ごした。

ぼくがたどり着いた1つの答え『Small is Beautiful』

ぼくがニュージーランドで学んだことは計り知れないし、すべてを伝え切ることはできないだろう。それほどまでにこの国での体験はぼくの人生観を大きく、大きく変えてくれた。

どこまでも広がる美しい大自然。
先進的な政治と考え方。
笑顔溢れる、穏やかな人間性。
人にも地球にも優しいエコ&サステイナブルな暮らし。
家族や仲間を何よりも大切にするライフスタイル。
自分の「好き」を大切に生きること。

印象に残っている思い出を挙げ出せばキリがない。ニュージーランドの魅力やこの国で価値観や考え方が変わった体験については今後も様々な形で発信をしていくつもりだが、もしこの国の魅力を一言で表すなら、このメッセージに限ると思う。

Small is Beautiful -より小さく より美しく-

『小さく生きる』とは、必要以上のモノを持たない生き方。
『美しく生きる』とは、自分の心に従って生きること。

この生き方を自分自身の人生に取り入れたことで、ぼくの人生は間違いなく変わった。そして自分の人生において「自分らしさ」「心の豊かさ」を取り戻すことができた。

日本と比べれば、ニュージーランドには何もない「小さな国」だけど、ぼくらが心豊かに、幸せに生きるためのヒントがこの国にはたくさんある。だからぼくは自分なりの表現方法でたくさんの人にこの国の魅力を届け続けたいと思う。そして「本当の豊かさ」とは何か。「本当の幸せ」とは何か。そんなメッセージをたくさんの人に問い続けていきたい。

そして1人でもたくさんの人が「自分らしく、心豊かに生きられる社会」を目指して、ぼくはこれからも「ニュージーランド」という国を通して、表現活動を続けていく。

トミマツ タクヤ


ニュージーランド写真家

大学卒業後、大手企業に就職するも会社員生活に馴染めず転職を繰り返す。度重なる体調不良をきっかけに会社員生活に終止符を打ち、2013年 世界一周を夢見てニュージーランドへ初渡航。数ヶ月の滞在予定がニュージーランドのライフスタイルやウェルビーイング(心の豊かさ)に衝撃を受けて、1年4ヶ月もの歳月を過ごす。

帰国後は人生観を大きく変えてくれたニュージーランドの魅力を届けるべく、ニュージーランド写真家として活動を開始。『Small is Beautiful -より小さく より美しく-』をテーマに撮影・表現活動を行う。2015年から過去50回に渡り「写真×音楽×ストーリー」を組み合わせた上映会スタイルの写真展『Small is Beautiful』を日本全国で開催。”写真展示のない写真展” として話題を呼び、延べ5000名以上を動員。自身の人生をも変えたそのメッセージと世界観は多くの人の感動を呼ぶ。

2018年9月にはガイドブック『LOVELY GREEN NEW ZEALAND』を四角大輔氏らと共に出版。2020年1月にはニュージーランドの最長ロングトレイルコース『テ・アラロア』3,000km縦断に挑戦するも、ロックダウンにより1,100km時点で中断(2022年11月より再開予定)。

2020年5月には幸福先進国ニュージーランドに学ぶ「心豊かな生き方=Small is Beautiful」について学び、実践するための オンラインコミュニティ『iti(イティ)』をスタート。日本にいながらもニュージーランドを感じられるような場を作るべく『iti village project』を起ち上げるなど、“Small is Beautiful” の世界観の追求を続けている。

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▶︎ 撮影用HP:TAKUYA LeNZ Photography
▶︎ ロングトレイル専門メディア:Longtrail.com − 挑戦の先に見える景色を求めて −

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